ライブ配信を通じた商品販売の波は、アジアを飛び越えアフリカ大陸へも到達しています。現在、ケニアにおいてこの新しいショッピング形態が人々の生活に深く根付いている要因として、スマートデバイスの広範な普及と、デジタルネイティブ世代が人口の大部分を占めている社会構造が挙げられます。さらに、現地のユーザーはオンラインでの購買行動において極めて慎重であり、画面越しでも商品のリアルな状態を細部まで把握したいという強い欲求を持っています。この「妥協のない品質確認」を求めるニーズと、リアルタイムでコミュニケーションが取れる配信の特性が見事にマッチしているのです。

この市場変革を最前線で牽引しているのが、世界的なショート動画プラットフォームであるTikTokの存在です。同アプリは、単にエンターテインメントを楽しむ場から、商品の発見から決済までをシームレスに行う巨大なマーケットプレイスへと変貌を遂げました。実際に取引の主役となっているのは、日本円にして1,200円程度に収まるリユースアパレルやコスメティック、モバイルアクセサリーといった手頃なアイテム群です。配信者に対して「生地の触り心地はどうか」「着用時のシルエットを見せてほしい」といった質問がチャットで飛び交い、それに即座に応えることで視聴者の不安が払拭され、スムーズな成約へと結びついています。

このような独自のコマース文化を下支えしているのは、現地で急速に発達したデジタル金融と配送のネットワークです。ケニア国内の電子決済において圧倒的なシェアを持つモバイルマネー「M-Pesa(エムペサ)」は、ソーシャルメディアとの連携が非常にスムーズに設計されています。ユーザーはダイレクトメッセージで出品者とやり取りし、そのまま簡単なステップで送金処理まで行うことができます。くわえて、地域密着型の集荷拠点ネットワークや、機動力の高い二輪車を用いたローカルデリバリーサービス「Pick-up Mtaani, Super Metro Couriers, Uber等」が有機的に連携することで、スマートフォン上の操作だけで商品が手元に届く高度なエコシステムが実現しています。

さらに見逃せないのが、この新しい経済圏が深刻な社会課題に対する一つの処方箋として機能している事実です。現地の報道によれば、職に就けていない人々の大半を若者が占めており、特に若い世代の雇用状況は極めて厳しい状態にあります。安定した職業の選択肢が限られる環境下で、特別な初期投資を必要とせず、モバイル端末一つで起業や副業に挑戦できるライブ販売は、彼らにとって希望の光となっています。国の政策研究機関もデジタル領域がもたらす雇用創出効果を高く評価しており、プラットフォーマー側もクリエイターの育成を通じた自立支援に積極的に乗り出しています。

デジタル決済インフラの普及と、就業機会を渇望する若者たちのエネルギー、そして参入ハードルの低いSNSという環境が交差するケニア。ここではライブ配信を通じた商取引が、一時的なブームではなく新たな産業として力強く根を下ろしています。むろん、悪質な販売者の排除や、都市と地方における配送品質の格差といったインフラ面での課題は依然として存在します。しかし、これらの壁を乗り越え、安心・安全な取引環境がさらに整備されれば、同国発のクリエイターエコノミーはかつてないスケールへと発展していくはずです。

本記事の内容は、2026年4月20日発行の東商新聞11面コラム「東商発 WORLD TOPICS 第29回 from Kenya(執筆:松野はるな/ジェトロ・ナイロビ事務所)」を基に構成いたしました。